
姫路城の周辺に、小さな宿を10ヶ所つくろうとしている。現在は3ヶ所である。
この話をすると、たいてい「規模拡大ですね」と受け取られる。少し違う。棟を増やしたいのではなく、面で受けられるようにしたいというのが正確なところだ。
1棟だけの宿には、努力では埋まらない弱さがある。それを埋める方法が、集積だという話を書く。
1. 1棟の宿が構造的に弱い理由
1棟貸しを1つだけ持っている状態には、次の弱さがある。
その1|断らざるを得ない予約が出る
満室の日に問い合わせが来たら、断るしかない。人数が合わない日も断るしかない。定員4名の宿に6名の問い合わせが来たら、そこで終わりである。
その2|需要の波をそのまま食らう
閑散期は閑散期のまま。1棟だと平準化の手段がない。
その3|検索で見つけてもらいにくい
1棟だけでは、地域の宿泊検索の中に埋もれる。予約サイトの一覧に1行あるだけの状態で、選ばれる確率は掛け算の一番小さいところで決まる。
その4|人を張れない
1棟の売上で専任の人は置けない。だから兼務になり、対応が薄くなる。
これらは運営の巧拙の話ではない。棟が1つであることから来る構造の話である。
2. 集積すると何が変わるか
同じ商圏に複数持つと、この4つが順に解ける。
| 弱み | 1棟のとき | 集積したとき |
|---|---|---|
| 満室・人数不一致 | 断る | 別の棟へ回せる |
| 需要の波 | そのまま受ける | 棟をまたいで吸収 |
| 検索での埋没 | 1行の掲載 | 面で認知される |
| 人が張れない | 兼務で薄くなる | 複数棟の売上で1人を置ける |
いちばん効くのは回せることだ。
「その日は空いていませんが、歩いて5分のこちらなら空いています」——これが言える状態は、1棟のときとまったく違う。断った予約は他社に行くが、回した予約は自社に残る。
人数の話も同じだ。2名の宿と6名の宿を両方持っていれば、グループの構成に合わせて組める。棟の性格を意図的にバラすことで、受けられる幅が広がる。
淡路島で運営しているKONA RESORTでは、江井・深草・尾崎の3ヶ所に棟が分かれている。棟ごとに性格が違うので、人数や目的に合わせて棟をまたいで組める。これは1棟だけの宿にはない強みである。
3. 「徒歩圏」であることが条件
ただし、複数持てばいいという話ではない。集積には距離の条件がある。
姫路城下でやろうとしているのは、徒歩圏に固めることである。県内に点在させるのとは意味が違う。
徒歩圏に固めると、こうなる。
- 回した先まで、お客様が歩いて移動できる(別の街に回しても意味がない)
- 清掃・リネン・鍵の対応を1人が徒歩で回れる(車移動が入ると人が張れない)
- 同じ観光導線を共有できる(姫路城という一点に全部の宿がぶら下がる)
3つ目が大きい。姫路城の周辺という共通の理由でお客様が来るので、集客の説明が1回で済む。棟ごとに別の物語を作る必要がない。
逆に言えば、共通の理由がない場所に散らしても、集積の効果はほぼ出ない。それは単に棟数が増えただけである。
4. 面で見せるということ
もう一つ考えているのが、姫路の小さな宿をまとめて見せることだ。
自社の宿だけでなく、同じような規模でやっている宿を「宿群」として一覧できる場所があれば、姫路で泊まる選択肢そのものが太くなる。1軒ずつバラバラに存在している状態と、まとまって見える状態とでは、街としての見え方が違う。
さらに広げると、こういう組み立てもできる。
神戸で遊んで、姫路で泊まる。翌日は淡路へ渡る。
兵庫全体を1本の線として見たとき、姫路は泊まる場所として真ん中に置ける。この位置づけは、姫路単体で売り込むより強いのではないかと思っている。
これはまだ構想である。実行していないので効果は分からない。ただ、1棟の稼働率を上げる努力とは別の階層に、こういう打ち手があるとは考えている。
5. 期待してはいけないこと
正直に書く。
集積は、1棟目が回っていない会社がやることではない。
1棟で赤字なら、2棟目は赤字が2つになるだけである。回せる状態を作るのは、1棟目で運営の型ができてからだ。順番を間違えると、ただ固定費が増える。
また、近い場所に増やすほど、近隣関係の重みが増す。1棟なら1軒との関係だが、徒歩圏に集めると同じ地域に何度も入っていくことになる。ここで一度こじれると、次の物件が難しくなる。集積は、近隣対応を工程に組み込める会社でないと回らない。
そして数字の話。私はまだ3ヶ所である。10ヶ所での結果を持っていない。この記事は結果報告ではなく、方針の説明である。
6. 住宅会社にとっての含意
最後に、宿を検討している住宅会社の方向けに書いておく。
モデルハウスを宿にする話は、多くの場合1棟から始まる。それでいいと思う。ただ、2棟目以降をどこに置くかは、1棟目のときから考えておいた方がいい。
自社の商圏の中で、徒歩または車で数分の範囲に、性格の違う建物をもう1つ持てるか。持てるなら、回せる状態が作れる。
1棟を完璧に磨くより、2棟で回せるようにする方が、稼働は安定するというのが今のところの実感である。
この記事の要点
- 1棟の弱さは運営の巧拙ではなく構造。断る・波を食らう・埋没する・人を張れない
- 集積の効果は「回せる」こと。断った予約は他社へ、回した予約は自社に残る
- ただし徒歩圏であることが条件。1棟目が回っていない段階でやることではない
※本稿は当社が保有・運営する施設での経験と現在の方針に基づくものである。記載の構想には未実施のものを含み、効果を保証するものではない。宿泊施設の集積は、立地・法規制・近隣環境によって成立条件が大きく異なる。
