ACCOMMODATION

築古戸建てを宿にするとき、確認申請でどこまで求められるのか

古民家旅館 侘寂の外観。黒漆喰の壁に赤い暖簾と瓦屋根
200用途変更が要る面積
2025年4月改正建築基準法の施行
3ヶ所姫路城下で運営中

「この建物、宿にできますか」

工務店の社長からこの相談を受けるとき、たいてい話は途中で止まる。収支の話でも、内装の話でもない。建築基準法をどう扱うかというところで止まる。

私自身、姫路城下で古い建物を宿に変えてきた。明治より前の建物も触った。そのたびに同じ壁にぶつかり、そのたびに保健所と消防と建築指導課の間を行き来してきた。

正直に書くと、この論点にきれいな正解はない。自治体によって判断が分かれるし、聞きに行く相手によっても答えが変わる。それでも、どこで何を聞かれるのかという地図は描ける。この記事はその地図である。

1. まず、用途変更が要るかどうかで話が二つに割れる

住宅を宿にするということは、建築基準法上の用途を「住宅」から「旅館」等に変えるということだ。

ここで最初の分岐がある。

面積 用途変更の確認申請
200㎡以下 不要
200㎡超 必要(建築指導課または民間確認検査機関へ)

この200㎡という線は、以前は100㎡だった。数年前の法改正で広がっている。この改正で残せる建物がかなり増えたというのが実感である。戸建てを一棟貸しにする規模なら、多くは200㎡以下に収まる。

ただし、確認申請が要らないことと、法に適合しなくてよいことはまったく別である。ここを混同すると後で必ず揉める。申請の手続きが省略されるだけで、建築基準法そのものは当然かかっている。

2. 200㎡以下でも、旅館としての基準は守る必要がある

確認申請が不要でも、建築基準法上「旅館」に該当する以上、旅館としての規定は適用される。

私が自社物件で必ず確認しているのは、たとえばこのあたりだ。

  • 階段の幅(住宅の基準と旅館の基準は違う)
  • 廊下の幅
  • 窓ガラスの種別(防火・網入りが要る位置か)
  • 内装制限

このうち窓ガラスのような項目は、見た目で分かってしまう。古い建物で網入りになっていない箇所は、指摘される前に直しておくべきだと考えている。

一方、階段幅のような寸法は、既存の建物では動かせないことがある。ここで「じゃあ全面改修か」となり、コストが合わなくなって計画が消える——というのが、いちばんよくある終わり方である。

3. いちばん厄介なのは、構造の扱い

法規の中で最後まで残るのが構造だ。

古い建物には、そもそも基礎がないものがある。明治より前の建物なら珍しくない。この状態を現行法にどう照らすのか。

保健所に聞くと、こう返ってくる。

「その判断は建築士さんに確認してください」

もっともである。保健所は建築の専門ではない。では建築指導課に聞くとどうなるか。

「現行法に適合させてください」

これも当然である。役所は法を運用する立場なので、適合以外の答えは出せない。

つまり、正面から聞きに行くと計画は止まる。これが現実だ。

さらに、私が聞いた話ではこうも言われる。「見た目で判断できるものではない。構造上の造りまで確認しないと、現行の基準に合っているかは分からない」。図面が残っていない建物ではなおさらで、突き詰めるとスケルトンまで解体して初めて骨組みが判断できる、という話になる。そこまでやるならコストが合わない。本末転倒である。

4. 実務はどう回っているのか

では実際にどう進んでいるか。誠実に書く。

建築士の名義で「現行法に照らして準拠している」という書類を出す、という形で処理されることが多い。保健所に出す建築士の押印がある書類と、性格は同じである。書式は任意で、提出も強制ではないという説明を受けたこともある。

私の場合、2026年に姫路で消防から次のように言われた。築年数が経過しているので現行の建築基準法には適合していないと考えられる。よって既存不適格建築物として、建築士が現在の法律に照らして準拠していると証する書類を提出してほしい——と。

このとき重要なのは、その書類に名前を書くのが誰かということだ。

私は、自社で運営する物件にしか自分の名前を書かない。

理由は単純で、何かあったときの責任がそこに集まるからだ。自分で企画し、自分で施工し、自分で運営する建物なら、どこをどう補強したかを全部分かっている。だから書ける。他社が運営する物件について、外から見ただけで同じ判断をすることはしない。

ここは各社の方針が分かれるところだと思う。ただ、方針を決めずに流れで名前を貸すのがいちばん危ないとは言える。

5. 2025年4月の改正で、空気が変わった

もう一つ、時期の話をしておきたい。

2025年4月に改正建築基準法が施行され、運用が明らかに厳しくなった。それ以前と同じ感覚で計画を組むと、途中で止まる。

これは戸建てに限らない。古いビルでも同じことが起きる。鉄筋コンクリート造で、1階がピロティでもなく、普通に考えれば問題のない建物であっても、上階で飲食店をやろうとすると引っかかり、事務所なら引っかからない、ということが起きる。人に貸すことに変わりはないのに、である。

用途で線が引かれる以上、これは仕方がない。ただ、計画の初期段階で「用途が変わると何が発動するのか」を把握しておかないと、設計が進んでから足元をすくわれる。

6. 期待してはいけないこと

ここまで読んで「じゃあ結局どうすれば」と思われたはずなので、期待できないことを先に書く。

この記事を読んでも、あなたの物件が宿にできるかは分からない。

判断は、建物の実物と、その自治体の運用で決まる。同じ兵庫県内でも、消防署が違えば言われることが違う。私が2026年に姫路東消防で言われた内容が、姫路市全体に適用されるかどうかも、実は確認できていない。

そして、民間の確認検査機関に出せば緩くなる、ということもない。基準は同じである。解釈に幅があるので担当者の違いが出ることはあるが、緩さを期待して出すと、かえってこじれる。

言えるのは、順番の話だけだ。

  1. まず面積を測る(200㎡を超えるかどうかで手続きがまったく変わる)
  2. 旅館としての寸法規定(階段幅など)を先に当てる。ここで消えるなら早く消した方がいい
  3. 構造は、誰の名前で何を出すのかを先に決めてから動く
  4. 消防と建築は縦割りである。片方の答えで安心しない

7. それでも古い建物を残したい理由

コストが合わないなら建て替えた方が早い。これは事実である。

それでも私が築古を触り続けているのは、建物を残しながら収益化することでしか、その建物は維持されないと考えているからだ。

補助金で一度きれいにしても、収益がなければまた朽ちる。宿として毎月お金を生む状態にして初めて、維持にお金をかけられる。街の中にちゃんとしたものが残っていくというのは、そういうことだと思っている。

だから、難しいと分かっていても相談は受けるし、自分の物件では自分で名前を書く。

ただ、これは全員に勧められる話ではない。自社で運営まで持つ覚悟がある会社にだけ、この選択肢は機能する。

この記事の要点

  • 200㎡以下なら用途変更の確認申請は不要。ただし旅館としての基準は当然かかる
  • 構造は「誰の名前で何を出すか」を先に決めてから動く。流れで名義を貸さない
  • 消防と建築は縦割り。片方の答えで安心しないこと

※本稿は当社が保有・運営する施設での実務経験と、姫路市内での行政協議の経験に基づくものである。建築基準法・旅館業法・消防法の運用は自治体および特定行政庁によって判断が分かれる。記載の内容は特定の物件について適法性を保証するものではない。実際の計画にあたっては、必ず建築士・保健所・消防署・建築指導課にご相談のうえで進めていただきたい。