ACCOMMODATION

料金表は6段階に畳める ── 人数×季節×プランの3次元をやめた話

商店街に面したUTAKATA HOTEL HIMEJIの店頭。赤い暖簾と青い扉
80通り3軸で組んだ場合
6段階畳んだあと
1/3判断にかかる時間

宿を始めた会社が、開業後わりと早い段階で溺れるものがある。

料金表である。

内装でも集客でもない。料金表だ。しかもこれは、始めてみるまで誰も問題だと思っていない。

私も同じだった。UTAKATA HOTEL HIMEJI の料金を組み直したとき、その理由がようやく分かった。

1. なぜ料金表は膨れ上がるのか

最初に料金表を作るとき、たいてい3つの軸で考える。

  1. 人数(2名/4名/6名…)
  2. 季節(通常/繁忙/連休/年末年始…)
  3. プラン(素泊まり/朝食付き/早割/連泊…)

一つひとつは当然のことに見える。人数で原価が変わるし、季節で需要が変わるし、プランで内容が違う。

だが、この3つを掛け合わせると何が起きるか。

人数4区分 × 季節5区分 × プラン4種 = 80通り

80マスの表が出来上がる。

そして次に何が起きるか。

  • 予約サイトごとに、この80マスを入れ直す
  • 料金を変えるたびに、80マスを直す
  • 誰かが1マス間違える
  • どれが正なのか分からなくなる

これは能力の問題ではなく、構造の問題だ。掛け算で増えるものは、人手で管理できない。

2. 軸を1つ落とす

そこで発想を変えた。3つの軸で組むのをやめ、最終的な料金の水準そのものを段階にすることにした。

Lv1からLv6までの6段階だけを決める。

段階 位置づけ
Lv1 最も安い水準(閑散期の平日)
Lv2 平常の下
Lv3 平常
Lv4 週末
Lv5 繁忙
Lv6 最繁忙(連休・年末年始)

そして、カレンダーの各日に「この日はLv4」と貼っていくだけにする。

人数もプランも、この段階の中で扱う。段階ごとに「2名なら◯円、4名なら◯円」を1組だけ持てばいい。

3次元だった表が、1次元+小さな添字になる。

3. 何が変わったか

いちばん変わったのは、判断の速さである。

以前は「来月の3連休、いくらにする?」という問いに答えるのに、表を開いて、季節区分を確認して、人数別を見て、プランを見て……と辿る必要があった。

いまは違う。「Lv5でいくか、Lv6か」 の二択になる。

体感で、判断にかかる時間が3分の1になった。

副次的な効果も出た。

3軸の表 6段階
料金改定 80マスを直す 6行を直す
予約サイトへの反映 全マスを転記 カレンダーに段階を貼る
引き継ぎ 表の読み方から説明 「この日は何レベルか」だけ
ミス どこで間違えたか分からない 段階の貼り間違いに限定される

特に効いたのは引き継ぎである。段階制にすると、料金の考え方を説明する必要がほぼなくなる。「この日は繁忙だからLv5」で通じる。人に任せられる形になった。

4. これは値付けの話ではない

誤解されやすいので書いておくが、これはいくらにするかの話ではない

段階に畳んでも、Lv3をいくらにするかは相変わらず自分で決めなければならない。相場も需要も変わらない。

変わるのは運用の重さだけである。

ただ、運用が軽くなると、値付けを見直す回数が増える。80マスを直すのが面倒だから半年放置していた料金を、6行なら月に一度見直せる。結果として値付けが良くなる、という順番だ。

5. 期待してはいけないこと

規模が大きくなると、この形は限界が来る。

私の場合は1棟貸しや小規模宿である。部屋タイプが多い施設や、レベニューマネジメントを本格的に回す規模なら、システムで動的に価格を出す方が合っている。6段階は、人が判断して人が貼る規模のための設計だ。

また、段階を6つより増やすと元の木阿弥になる。「Lv4.5が欲しい」と言い出したら、それは畳めていない証拠である。粗くて構わない。 粗いから速い。

もう一つ。この方式は予約サイト側の設定機能に依存する。日別料金を素直に入れられるチャンネルマネージャーを使っていることが前提になる。ここが弱いと、結局手作業が残る。

6. 「軸を1つ落とす」は、宿以外にも効く

この経験のあと、他の業務でも同じことを試すようになった。

見積の項目、工程の管理表、備品の発注表。どれも気づけば軸が増えている。軸が増えると、掛け算で複雑さが増える。

複雑になったとき、人はまず「もっと丁寧に管理しよう」と考える。私もそうだった。だが、たいていの場合それは逆で、軸を1つ落とす方が効く

情報が減ることを怖がらなくていい。判断が速くなる方が、現場では価値が大きい。

料金表という地味な話から学んだことだが、いま社内でいちばん使っている考え方かもしれない。

この記事の要点

  • 人数×季節×プランの3軸で組むと、掛け算で表が膨れて誰も管理できなくなる
  • 料金の水準そのものをLv1〜6の段階にし、カレンダーに貼るだけの形に畳む
  • 変わるのは値付けではなく運用の重さ。軽くなると見直す回数が増え、結果として値付けも良くなる

※本稿は当社が運営する小規模宿泊施設での実務に基づくものである。料金設計の適切な形は施設の規模・部屋タイプ数・販売チャネルによって異なる。記載の効果を保証するものではない。