
淡路島で運営している貸別荘の予約データを眺めていて、気づいたことがある。
お客様のほとんどが、1泊2日で帰る。
これは裏を返せば、まだ手をつけていない伸びしろがそこにあるということだ。同じお客様に「もう1泊」してもらえれば、新しいお客様を1組集めるよりも、はるかに少ない労力で売上が伸びる。集客コストはほぼゼロ、清掃も1回で2泊分をまかなえる。
だとすれば、値上げより先にやるべきは「1泊を2泊にしたくなる設計」ではないか。そう考えて、料金と時間の両方を見直すことにした。
1. 「2泊目1割引き」では、たぶん動かない
宿泊業界には昔から、連泊は2泊目を1割引きにするという相場観がある。
だが、正直に考えてみてほしい。1割引きくらいで「じゃあもう1泊しよう」と思えるだろうか。
私は思えなかった。1泊増えれば支払いはほぼ倍になる。それに対して割引はほんの少し。心が動く前に財布が止まる。
この程度の割引は、すでに連泊するつもりの人へのおまけにはなっても、1泊で帰る人を2泊に動かす力はない。
2. 半額は「大盤振る舞い」ではない
そこで、2泊目を半額にできないかと考えた。
数字だけ見れば大きく引いているように見える。だが、2泊目に追加でかかるコストは何かを分解すると、話が変わる。
| 項目 | 1泊目 | 2泊目 |
|---|---|---|
| 清掃 | かかる | かからない(退室後に1回) |
| リネン交換 | かかる | 基本は不要(希望時のみ) |
| 光熱費 | かかる | かかる |
| 予約手数料 | かかる | かかる(同一予約なら1回分の中) |
| 集客コスト | かかる | かからない |
追加で発生するのは、実質的に光熱費と消耗品の一部である。
一方、2泊目を売らなければどうなるか。その夜は空室になる。空室の売上はゼロだ。
半額でも埋まった方が利益は残る。「割引」ではなく「空いている夜を埋める投資」だと考え方を切り替えると、半額はむしろ合理的な数字に見えてくる。
念のため書いておくと、これは繁忙期には当てはまらない。翌日も1泊目の単価で埋まる見込みがある日に半額を出すのは、ただの値引きである。連泊促進は、埋まらない夜がある期間の打ち手として設計すべきだ。
3. 売っているのは「泊数」ではなく「時間の自由」
もう一つ気づいたことがある。連泊の価値は、実はお金の話ではない。
連泊にすると、チェックイン・チェックアウトの時間を組み替えられるようになる。
うちの標準はチェックイン16時、チェックアウト12時。1泊だとこの枠に縛られる。だが2泊なら、中日が丸ごと自由になる。
- 初日のチェックインを10時にして、ランチから別荘で過ごし始める
- 最終日のチェックアウトを21時にして、夜までゆっくりしてから帰る
同じ「2泊」でも、使い方の幅がまるで違う。
連泊とは、部屋を2回借りることではない。時間の使い方を自分で決められる贅沢を買うことである。
これがお客様に伝われば、2泊目半額はただの値引きではなく、体験の格上げの入口になる。売っているのは泊数ではなく時間の自由だ——そう捉え直すと、打ち出し方まで変わってくる。
4. 運用側で先に決めておくこと
時間の自由を売ると決めると、運用側の設計が要る。ここを詰めずに打ち出すと現場が壊れる。
- 前後の予約が入っていないことが条件である。だから早い時期の予約ほど提示しやすく、直前は出しにくい
- 清掃の入るタイミングを決める。前日夜のアウトが21時なら、翌日16時インまでに清掃を終える段取りが必要になる
- 自動で提示するのか、問い合わせベースにするのか。予約サイト経由では時間変更を柔軟に扱えないことが多く、自社サイト予約に寄せる理由にもなる
つまりこの施策は、料金の話に見えて予約経路と清掃体制の話でもある。ここを分けて考えると失敗する。
5. 期待してはいけないこと
誠実に書いておく。
これはまだ実行前のアイデアである。 私はこの設計を予約表に当てて検討している段階で、「半額にしたら連泊が何%増えた」という数字を持っていない。持っていない数字を語ることはできない。
また、この打ち手が効くかどうかは施設の性格に強く依存する。
| 効きやすい | 効きにくい |
|---|---|
| 目的地が周囲にある(島・高原・観光地) | 通過型の立地 |
| 1棟貸しで家族・グループ利用 | 素泊まりのビジネス利用 |
| 閑散期がはっきりある | 通年で埋まっている |
通過型の立地で2泊目を半額にしても、そもそも2泊する用事がない。割引で用事は作れない。
6. この発想は、宿以外にも効く
考えているうちに、これは宿だけの話ではないと思うようになった。
既存のお客様に「もう一回」「もう少し」を選んでもらう方が、新規を追いかけるより効率がいい。そしてその背中を押すのは、少しの割引よりも「そうすると、こんな過ごし方ができますよ」という具体的な使い道の提示である。
回数券でも、保守契約でも、追加工事でも、構造は同じだと思う。
値引きに見えるものも、視点を変えると投資になる。売上を伸ばすとき、まず「新規集客」や「値上げ」を考えがちだが、既存のお客様の1回あたりをどう上げるかの方が、コストが低く、早く効く。
貸別荘の予約表を「埋まっていない夜をどう埋めるか」という目で見直すと、打ち手はまだ残っている。実際に走らせて、また結果を書く。
この記事の要点
- 2泊目の追加コストは光熱費と消耗品の一部だけ。清掃も集客コストもかからない
- 半額は値引きではなく、空室のままにするか埋めるかの選択である
- 売っているのは泊数ではなく、チェックイン・アウトを組み替えられる「時間の自由」
※本稿は当社が保有・運営する施設での検討内容に基づくものである。記載の料金設計は検討段階のものであり、効果を保証するものではない。宿泊料金の設定は施設の立地・規模・季節性によって適切な形が異なる。
