ACCOMMODATION

内見3回より、試泊1回 ── 自分で泊まると出てくる違和感

A棟のテラスとプール。柵の向こうは水平線まで海が広がる
1開業前に必ず泊まる
14一晩で出た要修正
0内見で気づけた数

淡路島で新しい施設を開けるとき、私は開業前に自分で一晩泊まることにしている。

「内見で何度も見ているのに、必要か」と言われることがある。

必要である。内見を3回やるより、試泊1回の方が出てくる。 これは感覚ではなく、毎回そうなるからそう言っている。

先日も、開業前の施設に一晩泊まった。そこで出た違和感を、格好つけずに並べる。

1. 一晩で出てきたもの

順不同で書く。どれも些細に見えるが、全部お客様が気づくものである。

設備・不具合

  • サウナの下からすきま風が入ってくる
  • サウナの呼び出しベルが固定されていない(緊急時に手が届かない可能性)
  • 冷蔵庫まわりのコンセントが足りない
  • テラスの端はWi-Fiが届かない
  • 北側のエアコン室外機の風がBBQスペースに当たる

備品・使い勝手

  • シャワーまわりにタオル置きがない
  • タオル掛けがなく、タオルが散乱する
  • 服を掛けるハンガーがない
  • シャンプー置きが要る
  • トイレのペーパータオルを置く場所

見た目・安全

  • 温度計が固定されておらず、落とす可能性がある
  • ビーチチェアは固定したい(風で飛ぶ)
  • リモコンを壁に取り付ける。保護シールを剥がす
  • 案内表示がパウチのまま。ちゃんと製作した方がいい

一晩でこれだけ出る。しかも、内見では一つも気づいていない。

2. なぜ内見では見えないのか

理由ははっきりしている。内見は立って見ているだけだからだ。

宿の不便さは、動作の中にしか現れない。

内見 試泊
姿勢 立って見る 使う・座る・寝る
時間帯 昼の1回 夕方・夜・朝を通す
荷物 手ぶら 実際の荷物がある
濡れる 濡れない 濡れる(浴室・サウナ)
電源 使わない 足りないと分かる
音・風・温度 感じない 感じる

タオル掛けがないことは、濡れた手でタオルを持って初めて分かる。コンセントが足りないことは、充電しようとして初めて分かる。室外機の風は、BBQスペースに座って初めて分かる。

図面を見て気づける人はいない。私も気づかなかった。

3. 建てる側にこそ効く

ここが、住宅会社・工務店の方に伝えたいところである。

上に並べた項目のうち、大半は図面段階で潰せたものだ。

  • コンセントの数と位置
  • タオル掛け・ハンガーの下地
  • Wi-Fiの到達範囲(ルーターの位置)
  • 室外機の向き
  • リモコンの取り付け位置

これらは全部、設計で決まる。開業直前に気づくと、後付けで対応するしかない。後付けは見た目が悪いし、コストも余計にかかる。

つまり試泊は「開業前の最終チェック」であると同時に、次の物件の設計に戻すためのデータ収集でもある。

自社で設計・施工・運営を通しでやっていて、いちばん得をしているのはこの部分かもしれない。運営して気づいたことが、そのまま次の図面に反映される。この往復ができる会社は、実はそう多くない。

4. 試泊のやり方

大げさな準備は要らない。ただ、これだけは決めている。

  1. 一人で行かない。 複数人で泊まる。気づく箇所が人によって違う。特に、荷物の多い人・背の低い人がいると出方が変わる
  2. メモをその場で送る。 気づいた瞬間にスマホから送る。翌朝まとめようとすると半分忘れる
  3. 「直す」判断はその場でしない。 まず全部拾う。優先順位は後で付ける
  4. 朝までいる。 夜だけ見て帰ると、朝の光と温度が分からない

うちは気づいたことをスマホからチャットに送って、後で拾い上げる形にしている。項目が細かいほど、後から見返す価値が出る。

5. 期待してはいけないこと

試泊は、立地の判断には使えない。

一晩泊まっても、周辺の音の平日と休日の差、季節による気温差、繁忙期の交通量は分からない。試泊で分かるのは建物の中の話に限られる。

そして、試泊で全部が出るわけでもない。私も毎回、開業後にお客様から指摘されて初めて気づくことがある。試泊は「ゼロにする方法」ではなく、「初日にお客様が踏む地雷を減らす方法」である。

もう一つ。試泊のコストを軽く見ない方がいい。人が動き、1泊分の売上機会が消える。それでもやる価値があるというのが私の判断だが、判断は各社でしてほしい。

6. 社内ルールにした

この経験から、うちでは開業前の試泊を工程に入れることにした。

やるかやらないかを毎回考えると、忙しい時期に必ず飛ばす。飛ばした施設で、開業後にお客様から指摘が出る。それなら最初から工程表に置いておけばいい。

「内見3回より試泊1回」。社内ではこの言い方で通している。

宿を持つ住宅会社の方には、同じことを勧めたい。自分の会社が建てた家に、自分で一晩泊まる。 これは宿の品質確認であると同時に、自社の設計を検証する機会でもある。

そして、泊まってみて出てきた違和感は、次にその家を建てるお客様が踏まずに済むものになる。

この記事の要点

  • 宿の不便さは動作の中にしか現れない。立って見る内見では原理的に見えない
  • 出てきた指摘の大半は、コンセント・下地・室外機の向きなど図面段階で潰せるもの
  • 試泊は最終チェックであると同時に、次の設計へ戻すためのデータ収集である

※本稿は当社が運営する施設での実例に基づくものである。記載の指摘事項は当該施設固有のものを含み、すべての施設に当てはまるものではない。