
一棟貸しの宿をつくるとき、「定員をいくつにするか」という話は必ず出てきます。
一見シンプルな問いのようで、実際には複数の法令をまたいで判断しなければならない、なかなか厄介なテーマです。私自身、宿を増やすたびにここで立ち止まります。今回は、定員設定で押さえておきたいポイントを整理しておきます。
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## 「定員」には2種類ある
定員という言葉を一括りにしてしまいがちですが、実務上は大きく2種類に分けて考える必要があります。
**① 予約サイト・自社サイトに掲載する定員(販売上の定員)**
実際に募集をかける人数です。宿泊予約の仕組みに入力し、お客様に見せる数字です。
**② 保健所に許可申請で提出する定員(法令上の定員)**
旅館業の許可を取るために行政へ届け出る人数です。簡易宿所であれば、床面積3.3平米につき1人という計算が基本的な目安になります。
この2つは、必ずしも同じ数字にする必要はありません。むしろ、ここを意図的に設計することが大切です。
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## 許可上の定員は、できるだけ大きく取っておく
私が意識しているのは、**保健所に届け出る定員をできるだけ最大で取っておく**ことです。
たとえば、販売上の定員を4人に設定していたとします。すると「5人で泊まれますか?」という問い合わせが時々来ます。
このとき、保健所への届出定員も4人のままだと、5人を受け入れることは法令上できません。お断りするしかない。
一方、届出定員を6人で取っておき、販売上は4人で募集していれば、「5人でも大丈夫ですよ」とお答えすることが可能になります。広い空間をゆったり使ってもらえて、お客様の満足度も上がりやすい。
もちろん、届出定員を増やすには床面積など建物側の条件を満たす必要があります。ただ、物件によっては最初から余裕を持って取れるケースも多いので、設計・改修の段階から意識しておく価値があります。
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## 定員設定に絡む法令は、保健所だけではない
ここが落とし穴になりやすい部分です。定員に影響を与える法令は複数あり、それぞれが独立して制約をかけてきます。
**消防法令**
建物全体で受け入れる最大人数によって、求められる防火設備の水準が変わります。届出定員が増えると、消防側の要件がより厳しくなる場合があります。
**浄化槽**
都市部では下水道につながっているケースが多いですが、少し郊外や田舎の物件になると浄化槽が設置されていることがあります。浄化槽には処理できる人槽(人数の容量)が決まっており、これが実質的な定員の上限になることがあります。物件を取得・改修する前に必ず確認が必要です。
**建築基準法**
用途変更や改修の内容によっても、人数に関わる規定が絡んでくることがあります。
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## 後から変えるのが一番大変
これらを横断して最初に整合させておかないと、開業後に「追加で宿泊者を受け入れたい」「定員を増やしたい」と思ったときに、消防設備の改修や浄化槽の増設が必要になる、といった事態が起きます。工事費用だけでなく、許可の取り直しや行政との調整にも時間がかかります。
定員の設定は、「販売上いくらが売れやすいか」だけで決める話ではありません。保健所・消防・浄化槽・建築基準法、それぞれの条件を最初から並べて、余裕を持った数字を届け出ておくことが、後の運営のしやすさに直結します。
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## 気づき・学び
一棟貸し宿の定員は「お客様に見せる数字」と「行政に届け出る数字」の2種類を別々に設計するものです。そして後者は、保健所だけでなく消防・浄化槽・建築基準法と複数の法令が絡みます。これを開業前に横断して整理しておくかどうかが、後の運営の自由度を大きく左右します。宿づくりの初期段階で、ぜひ一度立ち止まって確認してほしいポイントです。
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